世界に1枚だけの版画を刷ってみよう!
「横浜[出前]美術館」–南区編–
現在、大規模改修工事のため長期休館中の横浜美術館。
お休みのあいだ、横浜美術館の学芸員やエデュケーター(教育普及担当)が美術館をとびだして、レクチャーや創作体験などを市内各地におとどけする「横浜[出前]美術館」!
第10弾は、南区の横浜市吉野町市民プラザに、ワークショップ「モノタイプ版画に挑戦!」をお届け!その様子をご紹介します。
そのほか、18区の魅力を発見する「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」、18区ゆかりの所蔵作品や作家をご紹介する「横浜美術館コレクション×18区」の特集もお楽しみください。
自分で描いて自分で刷る、ワクワク体験
今回、会場となったのは、南区にある横浜市吉野町市民プラザ。
市営地下鉄「吉野町」駅から徒歩5分、京急「南太田」駅から徒歩7分。可動式の舞台機構と200席の客席を持つホール、大小3つのスタジオ、会議室などを備えた文化施設です。[出前]美術館は、可動パネルで多彩な空間を設定して絵画や工芸などの展示にも利用される「ギャラリー」で開催しました。
今回は、銅板にインクを乗せ、そこに直接絵を描き、紙を乗せてプレス機で刷る「モノタイプ版画」を体験できるワークショップを開催しました。「モノ」とはギリシャ語の「MONOS=ただひとつの」に由来した言葉。つまり、世界に1枚だけの作品を刷り上げる技法です。
実際に挑戦する前に、横浜出身の版画家・長谷川潔の作品をご紹介。長谷川が用いた「マニエール・ノワール(メゾチント)」という技法はとても難しく時間がかかるので、残念ながら今回は同じ技法は体験できません。でもきっと、刷り上がる瞬間の喜びやワクワク感は、長谷川も皆さんも同じだと思います。
まずはエデュケーターの桜庭さんが、見本となる作品を制作。今回、このワークショップのために持ち込んだ小型のプレス機を使って刷り上がった「モノタイプ版画」はこんな感じです。
そしていよいよ制作開始! まずはローラーでていねいにインクをのばします。
ローラーを使ってインクを銅板にのせたら、割り箸ペンやヘラで自分の好きな絵を描きます。版画では、刷り上がりが元の絵と反対向きになるので、文字を描く場合などは要注意!
絵が描けたらプレス機で刷ります。銅板に湿らせた紙をのせて、ゆっくりとハンドルを回していくと…ほら、できた!
保護者の方々も一緒になって、全員が熱心に版画作りに取り組んでいます。
白い紙に刷ったり、色が付いた紙に重ねて刷ったり。最後は保護者の方と、2枚の版を並べて刷る共同作品にも挑戦。皆さん、初めての版画体験とは思えないほど上手にできました!
最後に、知っておくと美術鑑賞が楽しくなる「版画豆知識」をご紹介。
美術館などで目にする版画作品は、左下に数字が書いてあることがあります。これは「エディション・ナンバー」といって、この作品は何枚刷ったうちの何枚目か、ということを示すものです。例えば「8/35」なら、35枚刷った中の8枚目、ということ。
また、右下には作家のサインが書かれていることもあります。これを参考に、今回制作した版画作品にもカッコよく自分のサインを入れたら気分はもう版画家!?
お土産は、作品を飾るためのペーパーフレームのセットを。作品のイメージ合わせて色を選んでもらいました。刷りたての作品はまだ乾いていないので、別の紙に挟んでお持ち帰りいただきました。しっかり乾いたら、フレームに入れてお部屋に飾って楽しんでくださいね!
*新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、ガイドラインを遵守した対策を講じた上で実施しています。
18区の魅力発見! 講座参加者の皆さんにきいた「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」
横浜のことを知っているのは、よく訪れたり、住んでいる方々!
講座参加者の皆さんの声から南区の魅力をご紹介します。
歴史、自然、そしてなにより人情味豊かで活気あふれる「下町文化」が残る南区。
●下町の商店街らしく、横浜弘明寺商店街、横浜橋通商店街の活気のある雰囲気がいい(中区在住、40代)
●「市内最古の寺院」弘明寺がある(保土ケ谷区在住、40代)
●春は大岡川プロムナードの桜並木が素敵です(南区在住、30代)
「横浜美術館コレクション×18区」
当館のコレクション(所蔵作品)の中から、横浜市内18区ゆかりの作品や作家をご紹介します。
波間に浮かぶタコとカニ。
確かな技術が可能にした三代 井上良斎 の自由な作陶
南区は、古くから陶器制作にゆかりがあります。縄文土器の発掘や奈良時代の須恵器の生産、明治期の真葛窯の繁栄、そして南区永田東に保存されている三代井上良斎の登り窯も、貴重な文化遺産のひとつです。登り窯とは、斜面に階段状に築いた陶磁器の焼成窯で、炉内を高温で一定に保つことで、多くの作品を焼くことに優れています。
輸出向け陶磁器、隅田焼の家業を継いだ三代井上良斎は、古今の焼き物の技術に通じ、芸術性を追求する創作陶芸においても、多彩な展開をみせました。大正から昭和にかけて、新しい時代に向けた陶芸のあり方が活発に議論されるなか、良斎も器の形や意匠、釉薬の研究にうちこみ、伝統にとらわれない作陶にいどみました。この作品には、波間を泳ぐタコとカニが表されています。緑地に文様を掻き落とし、線部は白で加飾されています。文様は胴部から上にむかって小さく描かれ、下方ではあめ色の釉で隠されています。水底から水面にあがってくるタコとカニの姿をとらえた、ユニークな作品です。
――みなさんもぜひ南区を訪れてみてくださいね――
ほかの「アートでめぐる横浜18区」の記事をよむ