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「『穴』からのぞくシュルレアリスム ~世界をワクワク見なおす方法~」

「横浜[出前]美術館」 ―鶴見区編―

現在、大規模改修工事のため長期休館中の横浜美術館。
お休みのあいだ、横浜美術館の学芸員やエデュケーター(教育普及担当)が美術館をとびだして、レクチャーや創作体験などを市内各地におとどけする「横浜[出前]美術館」!

第5弾は、横浜市鶴見区民文化センター サルビアホールに、学芸員によるレクチャー「『穴』からのぞくシュルレアリスム ~世界をワクワク見なおす方法~」をお届け!その様子をレポートします。
そのほか、18区の魅力を発見する「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」、18区ゆかりの所蔵作品や作家をご紹介する「横浜美術館コレクション×18区」の特集もお楽しみください。

穴の向こうには何がみえる?

講座名:「『穴』からのぞくシュルレアリスム ~世界をワクワク見なおす方法~」
開催日時:2022年1月22日(土) 14時30分~16時
開催場所:横浜市鶴見区民文化センター サルビアホール 3階 リハーサル室
講師:坂本恭子(横浜美術館学芸員)
参加人数:15名

会場となったのは横浜市鶴見区民文化センター サルビアホール。
鶴見駅前の複合ビル「シークレイン」内にあって、さまざまな文化芸術活動に利用できるホール、楽器本来の響きを楽しむ演奏に適した音楽ホール、可動式パネルを備えたギャラリー、リハーサル室、練習室など、多様な文化芸術活動・鑑賞の場として、多くの市民の皆さんに親しまれています。

私たちはリハーサル室をお借りして、学芸員によるレクチャーを行いましたが、普段は演劇の稽古やダンスのレッスン、楽器練習などに使われています。

JR京浜東北線・鶴見線「鶴見」駅東口から徒歩2分、京急本線「京急鶴見」駅西口から徒歩2分とアクセスも抜群。周辺には飲食店などもたくさんあり、施設を訪れた際に、お買い物やお食事にも最適です。

さて、横浜美術館は、開館前の1983年からシュルレアリスムの作品を収集してきました。
レクチャーでは、当館が所蔵するシュルレアリスム作品の中から、アンドレ・ケルテス《割れた板ガラス、パリ》マックス・エルンスト《少女が見た湖の夢》ルネ・マグリット《王様の美術館》など複数の作品を取り上げて、「穴」というキーワードで学芸員がお話ししました。

レポートでは、レクチャーの中でお話しした作品のひとつ、ルネ・マグリット《王様の美術館》をピックアップしてご紹介します。

ルネ・マグリット《王様の美術館》
1966年
油彩、カンヴァス h. 130.0 × W. 89.0cm
横浜美術館蔵

画像を観て、作品に「穴」があいていないじゃないか!?と思われた方もいらっしゃると思います。
そう!確かに、作品にはどこにも「穴」はあいていません。「穴」を主題にしているわけでも、どこかに「穴」が描かれているわけでもないのです。

では、タイトルにある“「穴」からのぞくシュルレアリスム”とはどういうことでしょう?
今回のレクチャーでは、作品にみられる空間などを「穴」と捉えているのです。《王様の美術館》では、山高帽の男の体の部分を「穴」と捉えました。

超現実主義とも訳されるシュルレアリスム。
体の中に描かれている風景に着目してみると、普通であれば、風景は、山高帽の男の後ろの黒く塗られている部分に描かれるはずですが、本作では体の中に描きこまれています。

作品を眺めていると、どんどん体の中に吸い込まれていく感覚を覚えます。そして、体の中に描かれる風景は絵の中のずっと遠くにあると感じます。
しかし、風景は作品の構図の中で最前面にいるはずの山高帽の男の体に描かれているので、一番手前にあるはずです。
また、一番手前に描かれた風景がずっと遠くにあるのだとすると、山高帽の男の後ろに描かれている、球体や塀は風景よりさらに奥にあるのでしょうか?でも球体や塀は大きく描かれているのでとても近くにあるように感じます。

本作では遠近法がくずれて、前、後ろがひっくりかえる、通常ではありえない世界を描いています。これは決まりや規範の破壊と捉えることができるそうです。

「正確な情報が正しく描かれていない」「なんだかわからない」ことは、足りていないこと、ダメなことではなく、ワクワク、楽しいに変換すれば、今までとは違う視点や気づきを得られるチャンスです!
シュルレアリスムは、難しい、よくわからないと感じている方も多いと思いますが、「穴」という身近なキーワードが理解の糸口になることも。
みなさんも作品の中の「穴」を見つけて、覗いてみてはいかがでしょうか。違う角度、視点で作品をみると新しい世界が見えるかもしれません。

*新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、ガイドラインを遵守した対策を講じた上で実施しています。

▶︎「横浜[出前]美術館」開催予定の講座はこちら

18区の魅力発見!講座参加者の皆さんにきいた「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」

横浜のことを知っているのは、よく訪れたり、住んでいる方々!
講座参加者の皆さんの声から鶴見区の魅力をご紹介します。

東京、横浜どちらにもアクセスがいい鶴見区!

●交通手段が便利な所(鶴見区在住、60代)
●多様な印象です(横浜市外在住、60代)
●活気がある(泉区在住、40代)
●交通の便が良い。都内へでかけるのにちょうどよい距離感(鶴見区在住、40代)
●交通の便が良い、横浜の中心地の夜景が綺麗に見える距離にある、昔から多くの国籍の方が住んでいてダイバーシティに富んでいる(横浜市外在住、30代)
●東京・横浜など、どこへ行くにもアクセスが便利で、生活のうえでもよい環境です(鶴見区在住、60代)
●鶴見区に魅力なんてないです(笑)混沌としていて泥臭く胡散臭いところが特徴ですね(鶴見区在住、40代)


「横浜美術館コレクション×18区」

当館のコレクション(所蔵作品)の中から、横浜市内18区ゆかりの作品や作家をご紹介します。 

石渡江逸《生麦の夕》
1931年
多色木版 h. 36.3 × w. 24.0cm
横浜美術館蔵

埋め立てが進む前の生麦の姿を捉えた、石渡江逸いしわたこういつ《生麦の夕》。
黄昏時の下町風景にみる人々の暮らし。

うっすらと夕日が残る昼と夜の境目。空の上からは青みを帯びた闇が迫り、くっきりと輪郭を現し始めた月が、夜の訪れを告げます。小舟は行儀よく水辺に並び、人々はすでに帰路についたのか、人影のない静かな風景です。埋め立てが進む前、生麦周辺には、佃煮になる貝をむき身にして生計を立てる家が多くありました。地面に山積みになった貝殻から、この煙突のある建物も、むき身工場であることがわかります。空や水の鮮やかな藍色や、近景を大きく捉えて遠景と対比する構図は、江戸の浮世絵の伝統を引き継いだものです。しかし、いわゆる「名所」を描かず、身近な下町の何気ない風景に向けた視線に、作者の独自性を見て取ることができまを注いでいたことがわかります。

――みなさんもぜひ鶴見区を訪れてみてくださいね――

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