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「繭」でつむいだ「造形詩」ー由木礼《けものたちはみな去ってゆく》

横浜美術館のコレクション(所蔵作品)の中には横浜市内18区と関連する作品があるのをご存知ですか?

横浜の風景が描かれた作品、横浜出身の作家や横浜を拠点に制作活動にはげんだ作家の作品など、数多く所蔵しています。

今回は、泉区ゆかりの作品、由木礼ゆきれい《けものたちはみな去ってゆく》についてご紹介します。

由木礼《けものたちはみな去ってゆく》
1971(昭和46)年、木版、60.2×49.5 cm、横浜美術館蔵

雲が走り、大地に映じる影もゆらめき、植物はぐんぐん伸びていく――。定点撮影したビデオを早送りで見ているような疾走感をおぼえませんか?長く泉区中田北に住まった木版画家・由木礼の作品です。

由木が恩地孝四郎おんちこうしろう品川工しながわたくみの作品に感動して木版画を手がけるのは、世界各地で版画の国際展が開かれ出した1950年代のこと。ボードレールの詩をフランス語で、ポオの詩を英語で味わうために語学にいそしむほど文学愛好家だった由木は、木版画に「造形詩」の可能性を見出しました。詩(言葉)とイメージ(映像)をけあわせようとする作家の特質は、タイトル「けものたちはみな去ってゆく」の文字づかいにも響いています。

でも、さすがは「造形詩」。由木作品の詩情は言葉のみでなく、触覚的な絵肌マチエールへのこだわりに支えられています。ぐっと接近すると、ベタ塗りした箇所はほとんどなく、画面が小さな線の集積でできていることがわかります。細かい線は、ベニヤに水彩絵具をのせ、お手製のバレンでその粗い目をりとったもの。言葉とイメージの融合を求めたように、由木は木版画の、「和紙の繊維の間に色がみこみ、色が着いているというよりは染めている感触」を愛しみました。

微妙でやわらかな色調と、ザラつくような乾いた絵肌マチエール。これこそが、由木の作品に、うつろうもの、流れるもの、過ぎ去ってゆくものの寂しい気配をもたらしています。《けものたちはみな去ってゆく》は、中央に点じられた赤が脈打つ心臓のようで、かえって生命のはかなさを想わせます。「けもの」が人間をふくむ動物すべてを指すと考えるなら、次つぎと通りすぎてゆく「けものたち」を尻目しりめに建造物や植物は在りつづけるものの、それらもやがては遠い未来にむかって風化していく――そんな長大な時が封じ込められた作品に感じられてきます。

「今日は一日ぼんやりと窓の外を眺めて過ごす」などと言う代わりに「まゆの中にいる」と言ったりする人だった、とある友人は由木の想い出をつづりました。横浜・泉区のアトリエは由木にとって、想像/創造をはぐくむ心地よい「繭」だったことでしょう。彼もまたひとりの「けもの」として2003年に世を去りますが、そのあとには、木版画家が「繭」でつむいだ豊かな「造形詩」が遺されたのです。

《けものたちはみな去ってゆく》(部分)
左下に鉛筆でタイトルが記されています。


《けものたちはみな去ってゆく》(部分)
ベニヤのざらざらした目を生かしていることがわかります。 


横浜美術館では、《けものたちはみな去ってゆく》のほかにも、由木礼の作品を所蔵しています。ほかの作品について知りたいと思ったかたは「コレクション検索」をチェックしてみてくださいね。

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現在、大規模改修工事のため、長期休館中の横浜美術館。
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第15弾は、泉区の横浜市泉区民文化センターテアトルフォンテにうかがい、エデュケーターによるワークショップ「日本画体験『かんざんさんのはっぱ』」を開催しました。

あわせて、18区の魅力を発見する、講座参加者の皆さんにきいた「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」もぜひご覧ください。

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