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日本画の絵の具で葉っぱを描いてみよう!

「横浜[出前]美術館」–泉区編– 

現在、大規模改修工事のため長期休館中の横浜美術館。
お休みのあいだ、横浜美術館の学芸員やエデュケーター(教育普及担当)が美術館をとびだして、レクチャーや創作体験などを市内各地におとどけする「横浜[出前]美術館」!

第15弾は、泉区の横浜市泉区民文化センターテアトルフォンテに、ワークショップ「日本画体験『かんざんさんのはっぱ』」をお届け!その様子をお伝えします。
そのほか、18区の魅力を発見する「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」、18区ゆかりの所蔵作品や作家をご紹介する「横浜美術館コレクション×18区」の特集もお楽しみください。

「かんざんさんのはっぱ」を描いてみよう

講座名:「日本画体験『かんざんさんのはっぱ』」
開催日時:2022年11月12日(土) 13時30分~15時
開催場:横浜市泉区民文化センターテアトルフォンテ
講師:泉 桐子(横浜美術館エデュケーター/教育普及担当)
対象:小学1・2・3年生とその保護者
参加人数:7組14名

会場となったのは、泉区にある横浜市泉区民文化センターテアトルフォンテ。
相鉄いずみ野線「いずみ中央駅」から徒歩1分。地域に根ざした個性ある文化の創造のために1993年に誕生した施設です。中心となる「ホール」は、演劇をはじめさまざまな舞台芸術が楽しめる劇場空間。また、美術品などを展示する「ギャラリー」、ダンス・バレエ、楽器・合唱の練習や発表会に利用できる「リハーサル室」など、幅広いジャンルで創造の喜びに触れられる場が整っています。今回のワークショップは、水場や作業台など完備し、美術・工芸の創作活動に適した環境が整う「創作室」で開催しました。

冒頭では、ワークショップのタイトルにある「かんざんさん」こと、日本画家の下村観山をご紹介。横浜美術館の所蔵作品《小倉山》を見ながら、この絵が描かれた季節や何が描かれているかについて、みんなで考えてみました。じっくり見ていくと、ひのき科の若木、ツタ、楓、松、リスなど、いろんな樹木や動物が描かれていることに気づきます。
では、この絵はどんな方法で描かれているのかな? 興味が湧いてきたら、実際にやってみましょう!

下村観山《小倉山》  1909(明治42)年
絹本着色、六曲屏風一双/各 157.0 x 333.5 cm
横浜美術館蔵

今回は、観山が使った(かもしれない)絵の具として、日本画の画材であるいわ絵の具と水干すいひ絵の具をご用意。どちらも粉状で、ガラスの瓶に入っています。いつも使っているチューブ入りの絵の具とは様子が違うので、みんな興味津々です。

岩絵の具は、鉱石などを細かく砕いてすり潰したもの。磨くと「宝石」になる石も使われるので、近くで見るとキラキラしています。水干絵の具は、貝殻などを砕いた粉末を着色したもの。どちらも粉状なので、水やニカワを加えて使います。
ちなみにニカワとは、動物の皮や骨を原料として作られる「接着剤」。口に入れても害はありませんが、おいしくはないそうです。

まずは、エデュケーターの泉さんがお手本を見せます。
粉の絵の具にニカワを加えて、指でよく混ぜます。中指の上に人差し指をのせた、このフォームがポイントです!絵の具の作り方がわかったら、テーブルに戻って自分たちでやってみましょう。

壁際には、観山の絵に描かれている樹木を模した、和紙の葉っぱがたくさん吊るされています。絵の具の準備ができたら、好きな和紙の葉っぱを1枚選んで色を塗っていきます。

緑色の葉っぱを1枚仕上げてコツがつかめてきたら、もっといろんな色を使ってみましょう。好きな色の絵の具を選んで分けてもらったら、先ほどと同じように、ニカワや水を加えて丁寧に混ぜます。1枚の葉っぱを塗り分けたり、重ね塗りもできますが、絵の具に他の色を重ねると「にじみ」ができるので、その効果もちょっぴり考えて。これは「たらし込み」と呼ばれる技法で、観山が得意としていた技法です。

少しずつ、いろんな色の絵の具を分けてもらって、絵皿がどんどんカラフルになっていきました。葉っぱに色を塗るうちに、テーブルに敷いた紙にも描き始めて「作品」の世界が広がっていきます。

葉っぱはたくさん用意されているので、保護者のみなさんも一緒になって「かんざんさんのはっぱ」に挑戦!

いろんな形、いろんな色彩の葉っぱが、どんどんできていきます。1枚ごとに個性的で、カラフルで、見ているだけでとっても楽しいです。

絵の具が乾いたら、カラフルに染まった葉っぱをクリップで留めていきます。みんなが塗り上げた葉っぱが一緒になって、壁一面の大きな作品が完成です!

塗り上げた作品は、ヒモにクリップで留めたままお土産になりました。持ち帰ったら、お部屋に飾って楽しんでくださいね!

*新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、ガイドラインを遵守した対策を講じた上で実施しています。

▶︎「横浜[出前]美術館」開催予定の講座はこちら

18区の魅力発見! 講座参加者の皆さんにきいた「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」

横浜のことを知っているのは、よく訪れたり、住んでいる方々!
講座参加者の皆さんの声から泉区の魅力をご紹介します。

農地面積が市内1位で、農業がとても盛ん。
活きた水や緑に囲まれた自然豊かな泉区。

●江の島までつづく境川沿いサイクリングコースがあって、おすすめです(泉区在住、40代)
●歌舞伎、太鼓やお囃子、凧などの伝統文化を守る保存会があります(西区在住、40代)
●ゆめが丘にある牧場直営の「横濱アイス工房」のアイスがおいしいです(旭区在住、40代)
●農業が盛んで、新鮮な果物などの収穫体験ができる農園がある(旭区在住、40代)
●泉区内で作られた小麦を使ったおいしいピザが食べられるお店があります(泉区在住、40代)

「横浜美術館コレクション×18区」

当館のコレクション(所蔵作品)の中から、横浜市内18区ゆかりの作品や作家をご紹介します。

由木礼《けものたちはみな去ってゆく》
1971(昭和46)年、木版、60.2×49.5 cm、横浜美術館蔵

「繭」でつむいだ「造形詩」ー由木礼《けものたちはみな去ってゆく》

雲が走り、大地に映じる影もゆらめき、植物はぐんぐん伸びていく――。定点撮影したビデオを早送りで見ているような疾走感をおぼえませんか?長く泉区中田北に住まった木版画家・由木礼ゆきれいの作品です。

由木が恩地孝四郎おんちこうしろう品川工しながわたくみの作品に感動して木版画を手がけるのは、世界各地で版画の国際展が開かれ出した1950年代のこと。ボードレールの詩をフランス語で、ポオの詩を英語で味わうために語学にいそしむほど文学愛好家だった由木は、木版画に「造形詩」の可能性を見出しました。詩(言葉)とイメージ(映像)をけあわせようとする作家の特質は、タイトル「けものたちはみな去ってゆく」の文字づかいにも響いています。

でも、さすがは「造形詩」。由木作品の詩情は言葉のみでなく、触覚的な絵肌マチエールへのこだわりに支えられています。ぐっと接近すると、ベタ塗りした箇所はほとんどなく、画面が小さな線の集積でできていることがわかります。細かい線は、ベニヤに水彩絵具をのせ、お手製のバレンでその粗い目をりとったもの。言葉とイメージの融合を求めたように、由木は木版画の、「和紙の繊維の間に色がみこみ、色が着いているというよりは染めている感触」を愛しみました。

微妙でやわらかな色調と、ザラつくような乾いた絵肌マチエール。これこそが、由木の作品に、うつろうもの、流れるもの、過ぎ去ってゆくものの寂しい気配をもたらしています。《けものたちはみな去ってゆく》は、中央に点じられた赤が脈打つ心臓のようで、かえって生命のはかなさを想わせます。「けもの」が人間をふくむ動物すべてを指すと考えるなら、次つぎと通りすぎてゆく「けものたち」を尻目しりめに建造物や植物は在りつづけるものの、それらもやがては遠い未来にむかって風化していく――そんな長大な時が封じ込められた作品に感じられてきます。

「今日は一日ぼんやりと窓の外を眺めて過ごす」などと言う代わりに「まゆの中にいる」と言ったりする人だった、とある友人は由木の想い出をつづりました。横浜・泉区のアトリエは由木にとって、想像/創造をはぐくむ心地よい「繭」だったことでしょう。彼もまたひとりの「けもの」として2003年に世を去りますが、そのあとには、木版画家が「繭」でつむいだ豊かな「造形詩」が遺されたのです。

《けものたちはみな去ってゆく》(部分)
左下に鉛筆でタイトルが記されています。


《けものたちはみな去ってゆく》(部分)
ベニヤのざらざらした目を生かしていることがわかります。 


――みなさんもぜひ泉区を訪れてみてくださいね――

これまでの「アートでめぐる横浜18区」の記事はこちら

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