【第3回】「途中でやめる」テキトーのすすめ
横浜美術館では、現代アートの国際展「第8回 横浜トリエンナーレ」を舞台に、10代を対象とする全6回のプログラムを開催しました。今回は「横浜トリエンナーレを体験しよう!伝えよう!」と題した、ユースプログラム第 3回目の様子をレポートします。
第3回目の講師は、リメイク古着のブランド「途中でやめる」を主宰する、「第8回横浜トリエンナーレ」参加アーティストの山下陽光(ひかる)さん。3日間を参加者と一緒に活動しました。はじめに旧第一銀行横浜支店の会場にある山下さんの作品展示スペースでお話をうかがいました。
週末に大井競馬場のフリーマーケットへ行くことが好きだという山下さん。まずは、購入したものから発展した、実験的な展示について紹介していただきました。さまざまな商品が並ぶ大井競馬場のフリーマーケットには、なんと子どもの描いた絵もあるといいます。展示されている服は「子どもの描いた絵を服にする」というシリーズ。購入した絵に描かれているモチーフ、色や線に着想を得てつくられています。
「本物の花を油絵で描いたことがある人はいるけれど、これを服にしたことがある人はいない」、という山下さんならではの発想。そして、子どもの絵の服を着ているわたし、さらにその絵の前に立っているわたし…のように、思っていたものとは違う面白さになっていく、面白さの連鎖があるといいます。
2人の人物が描かれたシャツ(写真中央)をスタッフが試着してみると、山下さんは「(着ているスタッフは)なんか怒ったりしなさそうだよね?」と、服によって人の雰囲気が変わることについてもお話をされていました。
続いて、《Remake painter Hikaru Yamawasabi》の作品を紹介していただきました。こちらも大井競馬場のフリーマーケットで購入した水辺が描かれている絵をリメイクしています。このシリーズは、山下さんが東京への引っ越しをきっかけに、大好きなわさび採りができなくなってしまったことから着想しています。わさび採りに出かけられない、そんなモヤモヤの解決策として、風景の中の「ここにあったらいいんじゃないかな?」というところに自作のわさびの絵を貼り付ける手法を編み出したそうです。
旧第一銀行横浜支店の会場から移動し、午後は横浜美術館の「市民のアトリエ」で活動をしました。
まずは、名前と年齢、好きな色についてそれぞれ発表してから、授業開始。しかし、授業といっても、山下さんのそれは学校の授業とは一味違っていました。
「ユーチューブとか見ながら聞いてもらって…」という、まさかの話ではじまり、ちょっと面白いと思ったら話を聞く、退屈になったらトイレに行く、という不思議なルールのもと、授業は進みました。まず、メディアについて書かれたいくつかの本をヒントに、スマホ以前は何がすごいと言われていたのか、「便利のひとつ前」にさかのぼってみました。
ラジオ、レコード、テレビ、ビデオ、iPod… 音や映像の再生機器はどんどん進化しているけれど、実は前に使っていたもののほうがカッコよかったり、かかる手間が味わい深かったり。ひと昔前までは、外で音楽が聴けることは驚くべきことだったし、古い映画を観ようと思えば、新聞で調べ、終電を逃す覚悟で観に行ったことなど。
その中で、「レンタルビデオ屋で(何を借りようか)悩むのは、今のネットサーフィンと似ている?」と、形を変えながらもどこか時代は巡っていると感じることもあるそう。「大人になったら自分は何を懐かしむようになるんだろう」と思っていた少年時代の山下さんの視点から、メディアの変遷について振り返りました。
トークはまだまだ続き、今大人気のミュージシャン あのちゃんの衣装を作った話、手描きの鯉のぼりの話、日暮里にある老舗生地屋さんの話、8文字で曲の感想を書いてみる実験… カセットテープから流れる音楽とともに、とりとめのないお話がゆったりと渦巻く時間となりました。
最後に、次回へ向けた服作りの準備として、生地に模様を描く練習をしました。いきなり服に絵を描くことは難しいかもしれないけれど、長く白い布にペンを持って歩いてみると… あっという間に縞模様ができあがりました。横に線を引いたあとは、腕の長さで間隔をとって縦の線を引くと、チェック柄になりました。ひとり一人の色や線の筆跡からは、一人で描かないからこそのよさ、手書きの味が感じられます。
学校とはまったく違った山下さんの授業には、頭をかき乱された人も多かったのではないでしょうか?自分自身がいいと思うこと、好きなことにまっすぐ。けれども、どこか力を抜いて世界を面白く見ている山下さんの姿勢には、楽しい生き方のヒントがたくさんありました。
(山下さんと参加者との活動を記録した映像をこちらよりご覧いただけます。)
この日の参加者の感想を紹介します。
・自分が面白い、楽しいと思ったことをその熱量で話している人を見ると、オチがあるとかないとかもはやそんなことどーでもいいくらい聞いていてあきない。
・よくわかんないのがおもしろい。
・あのちゃんの衣装を制作していただなんて…!!衣装があのちゃんの良さを引き出しているようにも思えました!!!
・カラフルな色やおもしろい発想があったりとても楽しかったです。私もこれから自分らしくちょっとテキトーにつくりたいと思いました。
・1人1人自分のTシャツを作るのじゃなくて20人で20枚のTシャツを作るのいいなと思う。
・途中でやめてもいいんだなと思った。
・「途中でやめる」というのも、完成させないからこそのよさがあって、自分もやってみたい!と思いました。
次回は、みんなで描いた生地を使った服作りの様子についてレポートします。