見出し画像

【第2回】晴れ時々強風。話して、聞いて、ポスター貼り

横浜美術館では、現代アートの国際展「第8回横浜トリエンナーレ」を舞台に、10代を対象とする全6回のプログラムを開催しました。今回は「横浜トリエンナーレを体験しよう!伝えよう!」と題した、ユースプログラム第2回目の様子をレポートします。

 初回から1週間後、2回目のプログラムは、横浜トリエンナーレの作品をじっくり鑑賞するところからスタートしました。
前回は横浜美術館会場の全体の雰囲気を感じ取ることに主眼を置きましたが、今回は3つのグループに分かれて約1時間、6点の作品に集中して、感じたことや考えたことを言葉にしながら作品をみました。

ピッパ・ガーナーの《ヒトの原型》は、ひとつの胴体から様々な年齢、性別、肌の色の頭や腕、脚などが出ている作品です。
「なんだか苦しそう」という感想や、「スマホを見ているから現代の人」という観察、「お父さん、お母さんと赤ちゃんがいて、それぞれ別の方向を向いているから育児放棄をしているのかもしれない」という想像にまで話が広がりました。

你哥影視社(ユア・ブラザーズ・フィルムメイキング・グループ)の《宿舎》は、部屋全体が大きなインスタレーション。
所狭しと並ぶ二段ベッドに腰掛けて、自分たちも作品の一部になったように感じながら、気づいたことや考えたことを話し合いました。

続いて、「第8回横浜トリエンナーレ」の総合ディレクターである蔵屋美香館長からレクチャーを受けました。

横浜トリエンナーレの特徴、アーティスティック・ディレクター(AD)の役割、今回のテーマ「野草:いま、ここで⽣きてる」について、時に参加者に問いかけながらお話しました。

現代の私たちは、災害や戦争、環境破壊や経済格差、不寛容などの生きづらさに直面しています。それをどうサバイブしていけばいいのか、ADがヒントにしたのが、中国の小説家、魯迅が一番つらいときに書いた『野草』という本だったと言います。

「このトリエンナーレには、つらい状況だからこそ花開いたアーティストたちの表現に注目した作品がたくさん集められています。
また、働いて得たお金で物を買うという一般的な生活とは違う生き方を提示する作品もあります。
加えて、特別なヒーロー、ヒロインではなく、ごく普通の私たちが小さな行動を起こせば世界を変えることができる、というメッセージも作品群から読み解くことができます。
ぜひ作品をいっぱいみて、たくさんのことを考えてほしい。」
とお話しました。
(蔵屋館長のレクチャーの映像をこちらよりご覧いただけます。)

左から高須咲恵さん、西広太志さん、松下徹さん

午後は参加アーティストのSIDE COREの高須さん、西広さん、松下さんと活動しました。
今回の横浜トリエンナーレでSIDE COREは、街の風景がどんどん変化していくように、会期中にどんどん塗り重ねられ変化していく壁画を制作しています。
 
実は、1回目のプログラムの最後に、SIDE COREから参加者にこんな呼びかけがありました。
「『街の中で、ちょっと面白いと思うこと』をテーマに詩をつくってください」
これに応えた9名の参加者の13の詩が選ばれ、英訳された詩がSIDE COREによってデザインされたポスターになりました。

ポスターの一例。元の詩は左から「駅のロッカーの上にある、スイカ」、「青信号に気付かず横断歩道でまっている人。」、「当たらないのに人気な占い店」

この日のミッションは、これらのポスターをみんなで貼ること。
貼る場所は、SIDE COREが制作した壁画の上!
つまり参加者がつくった詩が、SIDE COREの壁画の一部になるのです。

高須さんと西広さんによる貼り方のデモンストレーションを見た後、2人一組になり、ローラーと糊を使ってポスターを貼っていきます。

A3サイズのコピー紙を4枚組み合わせることでA1サイズのポスターになります。
この日は日差しも風もとても強い日だったので、紙が飛ばされないようにまっすぐに貼るのは至難の業。協力しながら作業を進めました。

最後にそれぞれの詩の意図や、絵を描いた松下さんの解釈、高須さんと西広さんが感じたことを語り合いました。
完成した達成感と、汗を流した爽快感で、自然とみんなが笑顔になりました。

目の前にそびえ立つ壁の大きさを感じながらローラーを動かし、糊で手をベタベタにしながらポスターを貼ることで、SIDE COREが大切にするストリートカルチャーの「技術」や「知恵」を体感できる機会になったのではないでしょうか。
(SIDE COREと参加者との活動を記録した映像をこちらよりご覧いただけます。)


この日の参加者の感想を紹介します。

・一人でみて 共有して もう一回みて 説明してもらって またもう一回みての作業をくり返しするとだんだんわかってくる
・午前のトリエンナーレの鑑賞、空間アート?空間で表現するものが、難しい。ここは何故そうなったのか?その意図は何なのか?それを考える事が、難しい。
・(ヨアル・ナンゴとルンギスワ・グンタの作品を鑑賞して)
「与えられた場所で生きること」の安全と不自由が確かにあるのが分かった。[自由に生きるとは何か、自分と生活の移動について]
・ 館長の蔵屋さんの話を聞いて作品にこめられた思いが深く知れました。そして、作品を見る目も変わりました。
・アーティスティック・ディレクターの仕事が自分が思っていたよりもたくさんあって勉強になりました。作品を作ったアーティストさんたちが自分から参加したいと言っているのではなく、アーティスティック・ディレクターの人がさがしていたというのも初めて知りました。
・ 一番楽しかったことはサイドコアの作品の一部になったこと。
・ポスターはりは、ずれたりして難しかった。ローラーがすごく長いのもあってびっくりした。皆、詩かくの上手!
・みんなの作品もおもしろくて読まれるたびに笑ってしまった。とても楽しかった。
・様々な道具で様々な表現方法で何かを訴えても良い

次回は、参加アーティストの山下陽光さんとの活動について第3回のレポートをお送りします。
前回のレポートはこちら 

撮影:加藤甫
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

ユースプログラム「横浜トリエンナーレを体験しよう!伝えよう!」第2回
日時:2024年3月31日(日)10:00~15:00
会場:横浜美術館