【第5回】ファッションショーは汽笛とともに
横浜美術館では、現代アートの国際展「第8回横浜トリエンナーレ」を舞台に、10代を対象とする全6回のプログラムを開催しました。今回は「横浜トリエンナーレを体験しよう!伝えよう!」と題した、ユースプログラム第5回目の様子をレポートします。
前回から引き続き、「第8回横浜トリエンナーレ」参加アーティストの山下陽光(ひかる)さんと活動をしました。
3回にわたって制作してきたTシャツづくりは、午後の発表に向けてラストスパートに差しかかりました。ステープラーを使っておしゃれに生地をとめたり、ワンポイントのモチーフやポケットを縫いつけたり…。さらに大胆になっていく人も、さらに細かい作業になっていく人も最後の仕上げはさまざまです。
バドミントンのネットを用いた共同制作の作品も最終調整。しっかりと網目に文字をくくりつけ、形を整えました。はじめはまっさらだったネットは、思い思いに生地や毛糸などの素材がつけられて、大きなキャンバスに生まれ変わっていました。
作業中はというと、3日目となるこの日も、山下さんのカセットテープに録音していた音楽やラジオが流れていたり、最近気になった話、本の朗読があったりと耳心地の良い雰囲気。山下さんのラジオのような語りは、いつの間にかこのプログラムのお馴染みのBGMになっていました。
午後は、各自が完成させたばかりのTシャツに着替え、いざ本番へ。汽笛から始まる音楽とともに「市民のアトリエ」を出発しました。山下さんを先頭に、制作したネットの作品や参加者が模様を描いた長い布を掲げ、開館中の館内を行進しました。
音楽は、参加者の1人がこの日のために作曲してくれました。みんなが行進しやすいテンポを意識したそうで、はじまりの汽笛の音は出港する船を連想させる、横浜らしさが感じられる一曲でした。にぎやかな光景に、会場にいたお客さんは興味深々の様子。参加者の行進は一瞬にして注目の的となりました。
横浜美術館の特徴的なグランドギャラリーを抜け、美術館の建物の外に一回出てから、チケット売場の隣のスペースに到着。特設したファッションショーのような花道を歩き、事前に考えた決めポーズを緊張しながらも披露しました。
Tシャツを披露したあとは、一言ずつこだわったポイントを発表しました。使った素材やモチーフだけでなく、どのように生地を付けたのか、制作の過程で難しかったことなども共有してもらいました。
続いて、蔵屋美香館長が参加者一人ひとりに向けて質問を交えながらコメントをしました。蔵屋館長は山下さんのリメイクブランド「途中でやめる」の洋服を着て参加。出張先のアートの国際展「ヴェネチアビエンナーレ」の開催地、イタリアから駆けつけました。「リメイクは時間がかかるし大変というイメージがあるけれど、自分の思ったままに切ったり貼ったり、思い切ってやっていいんだということを参加者の服から発見できた」と言います。
参加者のTシャツをじっくり見ながら、「服に『ぺらぺら』したものや『じゃらじゃら』したものがついていると気分が上がりますよね?」と、山下さんのつくる洋服にも通じる、装うことで生まれるワクワク感に共感していました。また、「パンクのムーブメントで用いられる安全ピンと花の絵との対比」「ビビットな色合いやタイダイ(絞り染め)のような絵の具のにじみはヒッピーに通じている」など、ファッションとカルチャーの動向を結びつけながら、参加者のTシャツそれぞれの個性的な特徴についてお話しました。
客席には参加者の家族や友人なども集まり、ショーは盛況のうちに幕を閉じました。
発表のあとは、バドミントンのネットの作品を展示するため旧第一銀行横浜支店の会場へ移動しました。作品を掲げて歩くことも、すっかりパフォーマンスの一部のようです。
山下さんの展示を担当した学芸員も見守る中、参加者の作品が飾られました。隣には、手描きの作品解説と参加者一人一人の名前が刻まれた生地を掲示しました。
3回にわたって行われた山下さんとの活動は、この日が最終日。服をつくることも、自分でつくった作品を誰かに見てもらうことも、はじめの一歩は少し勇気がいるもの。山下さんと過ごした服づくりの時間には、物事を面白く考えるヒントが隠れていました。
(山下さんと参加者との活動を記録した映像をこちらよりご覧いただけます。)
この日の参加者の感想を紹介します。
・一人一人の作品にその人の個性が出ている感じがとても面白かったです。その人の好きな物がわかるプログラムだったと思いました。
・(ファッションショーは)めちゃくちゃきんちょうした。
・(リハーサルで)1回歩いた時はきんちょうして下を向いてしまったけれど、本番では自信をもって歩くことができた。
・ひたすらぬったけど、ぬい終わらなかった。なぜかそこが館長にほめられた。
・自分たちの作品が飾られていく姿を見るのが、とてもうれしかったし、感激した。
次回は、新聞作成とプログラムの振り返りの様子について、最終回となる第6回のレポートをお送りします。
撮影:加藤甫
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会