川瀬巴水《東京十二ヶ月 三十間堀の暮雪》
14,000点をこえる横浜美術館のコレクション作品から、毎月選りすぐりの1点をご紹介するシリーズ。学芸員がコンパクトに解説します。おなじみの作品も、はじめましての作品も、どうぞご堪能ください。
下辺の題字の右上に「わ多奈遍」の印、左下に年記が見えます。「わたなべ」は、絵師・彫師・摺師の分業を大正期に復活させた木版画の版元・渡邊庄三郎です。12月7日の夕暮れ、巴水と庄三郎は銀座を歩いていましたが、三十間堀にいたったところで巴水が突如スケッチに没頭。盟友ともいえる絵師に、庄三郎は黙って傘をさしかけていたとか。
吹雪にけぶる視界と、積雪のやわらかな感触を再現するために、版木をヤスリやタワシでこするといった方法も試みられました。川面の青緑には黄が混じり、ゆらめく光の反射も巧みに描かれています。かじかむ指で写生を続けた絵師の記憶そのものを、室内の丸窓からのぞき見ている気分になる。粋な構図です。
横浜美術館「コレクション検索」(収蔵品データベース)はこちら