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世界に1枚だけの版画を刷ってみよう! Part2

「横浜[出前]美術館」–保土ケ谷区編– 

現在、大規模改修工事のため長期休館中の横浜美術館。
お休みのあいだ、横浜美術館の学芸員やエデュケーター(教育普及担当)が美術館をとびだして、レクチャーや創作体験などを市内各地におとどけする「横浜[出前]美術館」!

第12弾は、保土ケ谷区の横浜市岩間市民プラザに、ワークショップ「モノタイプ版画に挑戦!」をお届け!その様子をお伝えします。
そのほか、18区の魅力を発見する「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」、18区ゆかりの所蔵作品や作家をご紹介する「横浜美術館コレクション×18区」の特集もお楽しみください。

自分で描いて、ふたりで描いて、刷ってみよう

講座名:「モノタイプ版画に挑戦!」
開催日時:2022年8月4日(木) 13時30分~15時
開催場:横浜市岩間市民プラザ ホール
講師:横浜美術館エデュケーター(教育普及担当)
対象:小学1・2・3年生とその保護者
参加人数:10組25名

今回、会場となったのは、保土ケ谷区にある横浜市岩間市民プラザ。
相鉄線「天王町」駅から徒歩2分。舞台と客席を付けたり何もない空間(フロア仕様)にしたりと多目的に使えるホールをはじめ、ギャラリー、音楽練習用のスタジオ、リハーサル室、レクチャールームなどを備えた地域の文化施設です。「[出前]美術館」は、ホールをフロア仕様にして開催しました。

今回のワークショップは、「モノタイプ版画に挑戦!」。6月に南区の横浜市吉野町市民プラザで開催したものと同じプログラムです。吉野町市民プラザでのレポートはこちら「世界に1枚だけの版画を刷ってみよう! 」。

実際に挑戦する前に、エデュケーターの桜庭さんが横浜美術館のコレクションの中からおすすめの版画家・長谷川潔の略歴と、その作品をご紹介。長谷川潔は、現在の横浜市西区御所山に生まれ、27歳でフランスへ向け出航して以降、生涯パリを拠点として活動しました。横浜美術館でも所蔵している《草花とアカリョム》は、花瓶に挿した草花の横を魚が泳いでいるような、ちょっと不思議な雰囲気の作品です。長谷川は「自然のうちに存在する植物や生物はすべてつながっていて、水によって支えられている」という思いを込めて描いた、といわれています。

長谷川がこの作品に用いた技法「マニエール・ノワール(メゾチント)」はとても難しく、特別な道具を必要とするので、今回は簡単に楽しめる版画の技法「モノタイプ版画」を体験していただきます。(「マニエール・ノワール」については最後にご紹介しています。ぜひ最後までご覧ください!)


テーブルの上に用意した道具はこんな感じです。左から、ローラー、お盆の上に黒いインク、手前に絵を描くための割り箸ペンなど。新聞紙の上にあるのが銅板です。薄茶色の段ボール板は、銅板を運ぶために使います。

まずは版画を楽しむためのウォーミングアップから。ゴムローラーを使って黒いインクを、お盆の上にのばします。

スタッフもちょっとお手伝い。

数分後にはみんな上手にローラーを使えるようになりました。インクを均一に伸ばせたら、次は新聞紙の上の銅板にのせていきます。銅板にインクをのせたら、割り箸ペンやヘラを使って好きな絵を描きます。
はじめにエデュケーターの桜庭さんが見本を制作。大きなスクリーンに映し出される桜庭さんの手元を、みんな真剣に見つめています。


絵が描けたら、プレス機で1枚ずつ刷っていきます。プレス機は圧力をかけることで版から紙へインクを転写する機械です。今回は、横浜美術館のアトリエにある5台の銅版画プレス機のうち、持ち運び可能な小型のタイプを2台、トラックで運んできました。見慣れない機械にみんな興味津々!

刷り上がった版画(左)はこんな感じ。元の銅板(右)の絵とは左右が逆になっているのがわかりますか?この版画は、刷り上がりが鏡に映るように反転する特徴があります。

そしていよいよ制作開始。割り箸ペンで描くと版面の黒いインクが掻きとられて、下からきらりと光る銅色の線が現れるおもしろさに夢中になっている様子。みんな一生懸命取り組んでいるので、ホールの中はしばらくの間しーんとなりました。

絵が描けたら、スタッフに手伝ってもらいながらプレス機のハンドルをゆっくり回して自分の版画を刷り上げます。

2枚目は、下地に黄色を刷った上に重ねて刷ってみました。白地とはまた印象が変わります。

付き添いで参加した保護者の方にも、版画を体験していただきました。子どもたちに負けず、真剣に取り組んでいるように見えますね…。

後半は、二人で一緒に版画をつくる「共同制作」に挑戦。例えば「お茶会」をテーマに決めて、そのイメージをそれぞれが版に描き、並べて一緒の紙に刷ると、思いがけないコラボレーション作品の出来上がり。

二人でひとつの絵になるように、きょうだい、または保護者の方と話し合って絵を描きます。

「どんな絵にしよう?」二人で作戦会議中。

そして刷り上がったのがこちら。2枚の絵が、真ん中でぴったり合いましたね!

ふたつのイメージがつながることで、物語性のある作品が生まれます。一人でつくるのも楽しいけれど、一緒につくるともっと楽しいね。

お土産は、刷り上がった作品を飾るためのペーパーフレームのセットです。作品のイメージに合わせて好きな色を選んで、お持ち帰りいただきました。しっかり乾いたら、フレームに入れてお部屋に飾って楽しんでくださいね!


最後に、ワークショップ中にも質問があった長谷川潔《草花とアカリョム》で用いた銅版画技法「マニエール・ノワール」について、簡単にご紹介します。
「マニエール・ノワール」は、最初にベルソーと呼ばれる道具を用いて、銅板に無数の点を刻むことで、ヤスリのようなざらざらした版面を作ります(目立て)。この状態で銅版にインクをつけて紙に刷ると真っ黒に刷り上がります。

左:ベルソーで目立てた銅板、奥:目立てる前の銅板、右:ベルソー

次にスクレーパーやバニッシャーという刃物やヘラのような道具で、版面のざらざらした部分を少しずつ削りとりながら描画していくことで、黒の中に明るい調子を作っていく技法です。

奥:スクレーパーとバニッシャー、手前:描画した版と刷った版画

「マニエール・ノワール」は、フランス語で「黒の技法」を意味し、英語では「メゾチント」と呼ばれます。ビロードのような深い黒と、豊かな諧調かいちょうが特徴の銅版画技法の一つであり、長谷川潔もこの技法に魅せられ、数多くの名作を生み出しました。

こちらの動画では、長谷川潔の作品《アレキサンドル三世橋とフランスの飛行船》(1930年制作)を中心に、作品で使われている「マニエール・ノワール(メゾチント)」などの技法について、実演を交えてお伝えしています。ぜひご覧ください。


今回のワークショップでは、「マニエール・ノワール」とは違う「モノタイプ」という方法で、モノトーンによる版画制作を体験していただきました。参加された皆さんはどんなことを感じとられたでしょうか。
横浜美術館には、長谷川潔の版画作品がたくさん収蔵されています。リニューアルオープンしたら、ぜひ本物の作品を見に来てくださいね。

*新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、ガイドラインを遵守した対策を講じた上で実施しています。

▶︎「横浜[出前]美術館」開催予定の講座はこちら

18区の魅力発見! 講座参加者の皆さんにきいた「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」

横浜のことを知っているのは、よく訪れたり、住んでいる方々!
講座参加者の皆さんの声から保土ケ谷区の魅力をご紹介します。

旧東海道の宿場町として栄えた「歴史ある街」保土ケ谷区。

●江戸時代の東海道宿場町「保土ヶ谷宿」。今も歴史を感じさせてくれる風景を楽しめる(保土ケ谷区在住、30代)
●「ハマのアメ横」と呼ばれる「洪福寺松原商店街」がある(西区在住、40代)
●箱根駅伝や旧東海道で有名な「権太坂」がある(保土ケ谷区在住、30代)
●保土ケ谷公園がとてもいいです。桜の時期もちろん四季折々の草花が楽しめます。夏は高校野球の会場にもなります(保土ケ谷区在住、40代)

「横浜美術館コレクション×18区」

当館のコレクション(所蔵作品)の中から、横浜市内18区ゆかりの作品や作家をご紹介します。

亀井竹二郎(原画)、大山周蔵(画工印刷兼発行人)
保土谷駅ほどがやえき 望湯殿山ゆどのさんをのぞむ懐古かいこ 東海道五十三次真景とうかいどうごじゅうさんつぎしんけい」より》
1892年(明治25)、カラー・リトグラフ、16.2×23.3cm
横浜美術館蔵(小島豊氏寄贈[小島烏水旧蔵])

今につたわる今井川のほとりの小さな社―亀井竹二郎が見た明治初期の保土ヶ谷宿

亀井竹二郎は、写真師にして画家でもあった横山松三郎や下岡蓮杖れんじょうに就いて西洋画の技法を習得し、石版画の仕事にもたずさわった草創期の洋画家です。今日、その名を知る人は少ないかもしれません。

竹二郎は、身につけた技法を活かして、東海道の五十三の宿場にのこる江戸時代の風情を油絵で記録するべく、1877年(明治10)に実地制作の旅に出ます。そして苦労のすえ、翌年1月に油彩画53点を完成しました。実際、旅路の無理によるものか、肺を病み、完成直後の1879年(明治12)に二十数年の生涯を閉じました。石版画連作「懐古 東海道五十三次真景」は、この油彩画を原画にして竹二郎の没後に刊行されました。

ここに描かれる保土ヶ谷宿には、現在の山形県の湯殿山を信仰する集団(こう)がありました。その中の清宮與一きよみやよいちという人が湯殿山を含む出羽三山の霊場を参拝したのを機に、同地ゆかりの大権現を自分の所有地にまつりました。画面をつぶさに観察すると、今井川に架かる小橋越しに小さな鳥居が見えます。その奥にやしろが描かれています。特に子どもの虫封じや航海の安全にご利益があったとして篤く信仰されました。明治の神仏分離令ののち、社名を外川神社とがわじんじゃに改め、今日にいたりました。タイトルにある湯殿山はこの史実に由来します。

横浜美術館では、本作のほかにも、亀井竹二郎の「懐古 東海道五十三次真景」作品を所蔵しています。ほかの作品について知りたいと思ったかたは「コレクション検索」をチェックしてみてくださいね。

――みなさんもぜひ保土ケ谷区を訪れてみてくださいね――

これまでの「アートでめぐる横浜18区」の記事はこちら

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