「引き算」の魅力―アンリ・マティス 《顔をかたむけたナディア》
13,000点をこえる横浜美術館のコレクション作品から、毎月選りすぐりの1点をご紹介するシリーズ。学芸員がコンパクトに解説します。おなじみの作品も、はじめましての作品も、どうぞご堪能ください。
目の前の女性が首をかしげてふっと微笑む、その瞬間をカメラでとらえたような、生き生きとした印象。でも、それが何本の線でできているかなぞってみると…、おやおや、たった10本ちょっと?
この絵は、筆で引いた線の味わいを、薬剤の化学反応を利用してそのまま再現できる銅版画の技法でつくられました。書道の「とめ」を思わせるアクセントを施したり、モチーフを左上方に寄せて大きく余白を設けたり、達人の業を随所にきかせつつ、さも気楽に描いたふうの軽やかさを前面に押しだしています。言うなれば「引き算」の魅力。自身の芸術が「人びとの疲れをいやす肘かけ椅子」となることを求めた画家の、ひとつの到達点です。
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