わたしはだれ?―ルネ・マグリット《王様の美術館》
13,000点をこえる横浜美術館のコレクション作品から、毎月選りすぐりの1点をご紹介するシリーズ。学芸員がコンパクトに解説します。おなじみの作品も、はじめましての作品も、どうぞご堪能ください。
山高帽子の男はマグリットが好んで絵のなかに登場させた人物です。この作品は体の輪郭線と目、鼻、唇といった顔のパーツを除いて、森と山の風景に満たされています。さらにマグリットはこの作品のタイトルを友人に決めさせたようです。そのほかいくつかの点でも謎めいて見えるでしょうか。しかし、同時にこの作品はこうすれば謎めいてみえる、という方法の実験であるともいえます。例えば、絵のなかの前後関係を反転させる、タイトルを他人に委ねるなど。謎を作るための秘密が、この作品には仕組まれているのです。謎であり、種明かしでもある。この二重性がマグリットの妙味と言えるでしょう。
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