追憶のかなたから―イヴ・タンギー《風のアルファベット》
13,000点をこえる横浜美術館のコレクション作品から、毎月選りすぐりの1点をご紹介するシリーズ。学芸員がコンパクトに解説します。おなじみの作品も、はじめましての作品も、どうぞご堪能ください。
砂漠のような空間に、海洋生物の化石や太古の遺物を思わせる堆積物が強い光に照らされ、地面には濃い影が落ちています。タンギーが幼い頃に夏を過ごしたのは、石器時代の巨石遺跡があるフランス最西端のブルターニュでした。彼がパリで目にしたデ・キリコの絵に触発され独学で絵を描き始めた時、イメージの源泉となったのは、脳裏に刻まれたブルターニュの風景でした。また画家は18歳の時にアフリカへ航海し、30歳になって再び訪れています。アフリカの砂漠もまた、地平線のないあいまいな空間を生みだす手がかりとなりました。この絵では垂直に組み上げられた堆積物がまるで生きものようにも見え、えも言われぬ存在感を放っています。
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