見出し画像

【レポート】葉っぱをぬいぬい、植物の変化を楽しむ作品づくり

横浜美術館では2015年度から横浜国立大学教育学部と連携し、戸部ハマノ愛生園の高齢者の方々を対象に美術を楽しむプログラムを開催してきました。2020年度以降、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から開催を見合わせていました。今年度は、作家・柵瀨茉莉子(さくらい・まりこ)さんのご協力を得て、大学生と高齢者が直に触れ合わずに植物や作品を介して交流するプログラムを組み立て、実現にこぎつけることができました。
参加した学生に、その活動の様子をレポートしていただきました。


みなさん初めまして!
私たちは、横浜国立大学教育学部で美術について学んでいる大学3年生です。
今回、横浜美術館、戸部ハマノ愛生園、作家の柵瀨茉莉子さんと連携し、
「葉っぱをぬいぬい、植物の変化を楽しむ作品づくり」というプログラムを行いました。
その活動のようすを学生目線でみなさんにお届けしたいと思います。
 



1. “ぬい”との出会い

2023年10月10日、火曜日。
授業初回のこの日、私たちは縫いの作家である柵瀨茉莉子さんと出会いました。

作家・柵瀨茉莉子さん

柵瀨さんは、刺繍を教えていたおばあ様の影響で“縫う”ことに関心を持って制作を続けている作家さんです。

柵瀨さんが制作した作品

このような作品を見せていただき、植物を“縫う”こと自体の新鮮さはもちろん、“縫う”という行為によって閉じ込められた時間の流れが感じられました。「葉っぱを縫う」という発想、なかなか出てこないものですよね。

今回は、柵瀨さんの制作手法を用いて、私たち大学生が植物を布に縫いとめた作品をつくり、戸部ハマノ愛生園のみなさんにお贈りします。

まず、試作をしました。
葉っぱを布に縫う、初めての体験です。
使う葉っぱは、緑豊かな大学構内で採集しました。色も形も様々で、縫うときに葉っぱがかたくて糸を通しづらかったり、逆にやわらかくて破けてしまったりもしました。
命が宿っていたものに糸を通すということに、みんなが緊張しているようすがうかがえます。


2. 植物採集@横浜国立大学

2023年10月20日、金曜日。
この日は、大学構内で植物採集をしました。
私たち学生が気になった植物を採集し、それを戸部ハマノ愛生園に届けて高齢者の方々に好きなものを選んでいただく、という流れです。

普段大学で多くの時間を過ごしていながらも、知らない植物や、何の木がどこに生えているのかなど、植物採集をする中でたくさんの疑問を抱き、横国生3年目にして、もしかしたら大学のことをまだまだ知れていないのかもしれない、ということに気付くきっかけとなりました。
忙しなく授業に参加するだけでは、実は周りの風景や自然に目を向けることもほとんどなかったのかもしれません。
 


3. 植物でつながる

2023年10月23日、月曜日。
私たちが横浜国立大学の敷地で選んだ葉っぱを美術館職員のみなさんが戸部ハマノ愛生園に届け、高齢者の方々に好きな葉っぱを選んでいただきました。
参加してくださった高齢者の方々は5名。はじめに、学生がメッセージを伝えるために制作したビデオをご覧いただきました。

(映像制作:高橋 智朗)

私たち学生のうち2人が、Zoom(オンラインミーティング)でそのようすを見守りました。

参加した学生の感想です。

“目の前に現れた数多くの採集された葉っぱに、みなさん楽しみながら、好きな葉っぱを5枚、探されていました。中には「中学校の校章に似ている」といった思い出を蘇らせたり、作品づくりの一環であるということにちなんで、ご自身の作品を私たちに見せてくださったりする方もいらっしゃいました。多くの葉っぱを目の前にし、十人十色なそれぞれの思いを伺うことができる、そんな素敵な出会いをすることができました。” 

2023年10月24日、火曜日。
高齢者の方々に選んでいただいた葉っぱを使って、大学で作品制作に取り組みました。

私たち学生のうち5人が、5名の高齢者の方々から前日聞きとったそれぞれの思いや好きな色や形を、縫いに込めることにしました。ほかの学生は、戸部ハマノ愛生園の共有スペースに飾って楽しんでもらうための作品をつくりました。
制作段階では、どの糸を選ぼうか、どのように葉っぱを配置しようか、何度も試しては悩む学生の姿が印象的でした。

 そして完成した作品をいくつか紹介したいと思います。

 制作を終えた翌日、美術館職員のみなさんが戸部ハマノ愛生園に作品をお届けしました。


4. “ぬい”でつながる

2023年10月31日、火曜日。この授業の最終回です。
 
作品を受け取った愛生園の高齢者の方々と、学生、柵瀬さん、美術館職員のみなさんが全員揃ってのオンラインミーティングを行いました。

学生からは作品に込めた思いや意図を伝え、高齢者の方々からは感想をお話しいただきました。5名の高齢者の方々の中には、学生が込めた思いを感じることができたという方もいらっしゃいました。

「近所に生えていた木の葉っぱだわ」「この実を“あかまんま”と言ってよくおままごとに使っていたな」、そんな植物にまつわる思い出が、たくさん出てきました。話はさらに発展して、昔訪れた場所や、自身の作品についても生き生きと語ってくださいました。
これには学生もびっくりです。
まさか植物の話から、そんな大きな話題に広がるとは。

学生の感想です。

“自分の作品を通して高齢者の方々が生き生きとした様子でお話をされていたのが印象的でした”
“(高齢者の方が)寝ているときにも見られるようにと場所を考えて飾ってくださったのが嬉しかった”
“ずっと会えていない祖父に会いに行きたいという気持ちが溢れてきた”

“ぬい”を通して植物とふれあい、作品として表現したいものを考え悩み、最終的にはその作品を高齢者の方々にプレゼントする。
今回のプログラムでは、新しく体験したことはもちろん、作品を通して他者に何を伝えることができるのか、また他者がどのように受け取ってくれるのか、様々な視点から今までにはなかった発見を得ることができたと思います。

“ぬい”という新しい表現の形を教えてくださった柵瀨茉莉子さん、葉っぱを選び、作品を受け取ったときのフィードバックをくださり、交流してくださった戸部ハマノ愛生園の方々、そしてこの機会を用意して私たち学生と愛生園の高齢者の方々とを繋げてくださった職員のみなさま。
この場をお借りして、感謝の気持ちを伝えさせていただきます。
本当に素敵な時間をありがとうございました。^^
 

西 桃花、富岡 紗南           
(横浜国立大学 教育学部)