月岡芳年《藤原保昌月下弄笛図》
14,000点をこえる横浜美術館のコレクション作品から、毎月選りすぐりの1点をご紹介するシリーズ。学芸員がコンパクトに解説します。おなじみの作品も、はじめましての作品も、どうぞご堪能ください。
主題は『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』が伝える、平安中期の貴族・藤原保昌と大盗賊・袴垂の物語。肌寒い秋の夜、笛を吹きつつ歩く保昌の衣を奪おうと後をつけながら、なぜか恐ろしくて手が出せない袴垂。何度も斬りかかろうとし、足音たかく駆け寄っても、相手はまったく動じない。ついにはその家に連れていかれ、衣をもらったうえに、身の安全まで諭される始末。
風になびく薄や狩衣の袖が強調する斜めの動き。それとは逆向きに身がまえる盗賊と、直立する貴族のポーズの対比が、画面に緊張感を生んでいます。刀をにぎる袴垂に、ちらと眼を開くだけの保昌。そんな細部にも、名高い盗賊を震えあがらせた“豪の者”がたくみに表現されています。
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