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月岡芳年《藤原保昌月下弄笛図》

14,000点をこえる横浜美術館のコレクション作品から、毎月選りすぐりの1点をご紹介するシリーズ。学芸員がコンパクトに解説します。おなじみの作品も、はじめましての作品も、どうぞご堪能ください。

月岡芳年《藤原保昌月下弄笛図》1883年(明治16年)
木版/用紙: 35.9 x 72.1 cm
横浜美術館蔵(加藤栄一氏寄贈)

主題は『今昔物語集こんじゃくものがたりしゅう』や『宇治拾遺物語うじしゅういものがたり』が伝える、平安中期の貴族・藤原保昌ふじわらのやすまさと大盗賊・袴垂はかまだれの物語。肌寒い秋の夜、笛を吹きつつ歩く保昌の衣を奪おうと後をつけながら、なぜか恐ろしくて手が出せない袴垂はかまだれ。何度も斬りかかろうとし、足音たかく駆け寄っても、相手はまったく動じない。ついにはその家に連れていかれ、衣をもらったうえに、身の安全までさとされる始末。
風になびくすすき狩衣かりぎぬの袖が強調する斜めの動き。それとは逆向きに身がまえる盗賊と、直立する貴族のポーズの対比が、画面に緊張感を生んでいます。刀をにぎる袴垂はかまだれに、ちらとまなこを開くだけの保昌。そんな細部にも、名高い盗賊を震えあがらせた“ごうもの”がたくみに表現されています。

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