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【第4回】ネットに編む文字、走るペン

横浜美術館では、現代アートの国際展「第8回横浜トリエンナーレ」を舞台に、10代を対象とする全6回のプログラムを開催しました。今回は「横浜トリエンナーレを体験しよう!伝えよう!」と題した、ユースプログラム第4回目の様子をレポートします。
 
前回から引き続き、「第8回横浜トリエンナーレ」参加アーティストの山下陽光(ひかる)さんと活動をしました。
 
午前中は、共同制作に取り組みました。一つは、バドミントンのネットを使った作品です。こちらのネットは、山下さんお気に入りの大井競馬場のフリーマーケットで購入した掘り出し物です。

4~5人のグループに分かれて話し合い、ネットに編む文字を考えました。「HFNHU」「7788」「18480」「KREU」… イニシャルや誕生月などを自分たちで決めた法則にそって並べ、そのグループにしか分からない、特別な数字や文が出来上がりました。
 
自分を表す文字をひとり一つずつ、カラフルな毛糸やさまざまな手触りの生地を組み合わせて形をつくっていきます。素材には、山下さんが制作した服の端切れなども並びました。紙の上で考えてみるのと、ネットの上でくくり付けてみるのとでは、形や素材とのイメージが異なり、手を動かしながら模索する時間となりました。

作業中のBGMは、山下さんによる鶴見俊輔著『限界芸術論』の朗読。前回の活動の中で山下さんがお話されていたメディアの変遷に関連して、ラジオから考える文化の普及の箇所を取り上げて読み上げていました。書籍によれば、「文化がまき散らされる手続きを含めて文化となる」そう。山下さんは、「拡散」や「炎上」など現代のSNSに見られる風潮と重ね合わせながら、「文化のまき散らし方」について人知れず感銘を受けていたようでした。

だんだんと制作が進んでくると、個性豊かな文字がネットに浮かび上がりました。この作品は、山下さんの展示スペースのある、旧第一銀行横浜支店の会場の壁に展示することになりました。
 
文字の制作と同時に、もう一つの作業を行いました。長いピンクの生地に、歩きながらペンを走らせ、縦と横の線を引いていきます。前回山下さんに伝授してもらったこの技も、参加者はもう手慣れた様子です。模様を描き終えたら、地面に置いた布の上を歩いて印をつけ、90cm四方くらいに裁断した布を参加者に配布しました。

午後はTシャツづくりに取りかかりました。まずは、配られた生地のチェック模様をお手本にTシャツに描き写します。まっさらなところに絵を描くのは緊張するけれど、誰かの線をたどってみることで、次の一歩を思い切って踏み出すことができました。これは、山下さんの「子どもの絵を服にしてみる」というシリーズ作品の手法の基本となっています。このシリーズは、大井競馬場で購入した子どもの絵をもとに、描かれているモチーフ、色や線に着想を得て服がつくられています。
 
また、Tシャツづくりは、生地づくりやその模様をTシャツに描き写す工程を協力して行うことにより、一人一枚ではなく、20人の手で20枚分のTシャツをつくろうという協働の試みでもあります。

山下さんからは「Tシャツとチェックの生地が連動するようなデザインにしてもいいし、そうでなくてもいい」「テープを貼ってその上から線を引いた後、テープをはがすことで描かれない部分をつくることができる」「服の模様と同じ模様の布を上に置くことで立体感がでてくる」など、制作の手がかりを教えていただきました。
 
絵の具やペンで丁寧にモチーフを描いてみる人やテープの上から絵の具を飛び散らせて模様を描く人、Tシャツとは違った素材を用いてポケットやネクタイ、ギャザーの装飾をつくる人など、参加者は、約2時間かけて思い思いにTシャツづくりに打ち込みました。

作業中には、山下さんのカセットテープから、展覧会のテーマとなった『野草』にちなんで、作者である魯迅が生きていた時代の中国の音楽が流れていました。心なしか、古の工房のような懐かしさが感じられる制作風景となりました。

文字の形や線の模様、素材の手触りを捉えながら制作した今回の活動では、山下さんの服作りの肝となる「リメイク」について、より深く考えるきっかけとなったのではないでしょうか。
(山下さんと参加者との活動を記録した映像をこちらよりご覧いただけます。)

この日の参加者の感想を紹介します。

・ついに服を作り始めたけど、どうしてもきれいにしようって思っちゃって最初の一手が出るまで時間がかかったけど、一度やりだしたらもう心の向くままに描く!貼る!切る!でどんどんすすめられた。
・服はシンプルに作ろうと思うと上手くいかない…
・文字作りの続きをしたのち、Tシャツをつくった。水も飲んだりせず、集中してひたすらかいた。久しぶりに絵の具がつかえて楽しかったし、うれしかった。
・午後は服のデザインをしました。もうすでにマッキーでかかれている線になにか加えようと考えましたが、少しやらなくてもかんせいでいいのではないかと思ったので、はでな色ではなくベージュのような色のテイストでもふもふとポッケをつくりました。
 

次回は、制作したTシャツを身につけてお客さんの前で発表する日!山下さんとの最後の活動の様子をレポートします。


これまでのレポートはこちら
【第1回】「いま、ここで生きてる」ってなんだ?!
【第2回】晴れ時々強風。話して、聞いて、ポスター貼り
【第3回】「途中でやめる」テキトーのすすめ

ユースプログラム「横浜トリエンナーレを体験しよう!伝えよう!」第4回
日時:2024年4月14日(日)10:00~15:00
会場:横浜美術館