波間に浮かぶタコとカニ。確かな技術が可能にした 三代 井上良斎 の自由な作陶
横浜美術館のコレクション(所蔵作品)の中には横浜市内18区と関連する作品があるのをご存知ですか?
横浜の風景が描かれた作品、横浜出身の作家や横浜を拠点に制作活動にはげんだ作家の作品など、数多く所蔵しています。
今回は、南区ゆかりの作品、井上良斎(三代)《波文象嵌壷 銘「海」》についてご紹介します。
南区は、古くから陶器制作にゆかりがあります。縄文土器の発掘や奈良時代の須恵器の生産、明治期の真葛窯の繁栄、そして南区永田東に保存されている三代井上良斎の登り窯も、貴重な文化遺産のひとつです。登り窯とは、斜面に階段状に築いた陶磁器の焼成窯で、炉内を高温で一定に保つことで、多くの作品を焼くことに優れています。
輸出向け陶磁器、隅田焼の家業を継いだ三代井上良斎は、古今の焼き物の技術に通じ、芸術性を追求する創作陶芸においても、多彩な展開をみせました。大正から昭和にかけて、新しい時代に向けた陶芸のあり方が活発に議論されるなか、良斎も器の形や意匠、釉薬の研究にうちこみ、伝統にとらわれない作陶にいどみました。この作品には、波間を泳ぐタコとカニが表されています。緑地に文様を掻き落とし、線部は白で加飾されています。文様は胴部から上にむかって小さく描かれ、下方ではあめ色の釉で隠されています。水底から水面にあがってくるタコとカニの姿をとらえた、ユニークな作品です。
横浜美術館では、本作のほかにも、井上良斎(三代)の作品を所蔵しています。ほかの作品について知りたいと思ったかたは「コレクション検索」をチェックしてみてくださいね。
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横浜美術館スタッフが18区津々浦々にアートをお届け!「横浜[出前]美術館」
現在、大規模改修工事のため、長期休館中の横浜美術館。
お休みのあいだ、学芸員やエデュケーター(教育普及担当)が美術館をとびだして、レクチャーや創作体験などを市内各地におとどけする「横浜[出前]美術館」!その様子をレポートします。
第10弾は、南区の横浜市吉野町市民プラザにうかがい、ワークショップ「モノタイプ版画に挑戦!」を開催しました。
あわせて、18区の魅力を発見する、講座参加者の皆さんにきいた「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」もぜひご覧ください。
▶「アートでめぐる横浜18区」南区編
世界に1枚だけの版画を刷ってみよう!